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mruby/c|レポート mruby/c

軽量Rubyとマイコンを使った産官学連携ハッカソン 「松江KosenHack!!」 現地レポート

2026年03月25日

しまねソフト研究開発センターが研究開発する軽量Ruby言語「mruby/c」を活用した、松江高専が主催する産官学連携ハッカソン「松江KosenHack!!」の取り組みを紹介します。

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しまねソフト研究開発センター(以降「ITOC」)では、IoT分野における技術支援や研究開発を通じて、島根県内企業の新たな製品・サービス創出支援に取り組んでいます。その取り組みの一環として、ITOCの東専門研究員が組み込み・IoTデバイス開発向け軽量Ruby言語「mruby/c」の研究開発に取り組んでいます。

2026年2月に開催された松江工業高等専門学校(担当教員:情報工学科 教授・杉山 耕一朗氏)が主催する産官学連携ハッカソン「松江KosenHack!!」で「mruby/c」が活用されており、島根県におけるプログラミング言語「Ruby」を通じて人材育成と産業振興の両立を目指した取り組みと当日の様子をレポートで紹介します。

なお、本レポートは「松江KosenHack!!」の企画・運営事業者である株式会社パソナ DX HUB島根によって以下のとおり寄稿されたものです。

松江KosenHack!! - 産官学連携で育む、地域発IT人材の未来 -

寄稿者:田窪 大樹 氏(株式会社パソナDX HUB島根マネージャー/パブリックDX支援チーム長)

目次

「松江KosenHack!!」とは何なのか?
ハッカソンで用いる技術について
どのようなハッカソンなのか?を現地レポート
未来へつなぐコミュニティの絆
おわりに
松江KosenHack!!の参考情報
寄稿者紹介



「松江KosenHack!!」とは何なのか?

「松江KosenHack!!」は、松江工業高等専門学校(以降「松江高専」)情報工学科4年生の授業の一環として、2023年から毎年開催されているハッカソンイベントです。約40名の学生が10チームに分かれ、地域内IT企業の伴走支援を受けながら、3日間にわたって課題解決型の開発ワークに取り組みます。

本イベントの特徴は、単なる技術演習にとどまらず、実際の開発現場に近い環境を再現している点にあります。学生は企業エンジニアと共に作業を進めることで、ITエンジニアとして働く姿を具体的にイメージできるようになり、将来のキャリア形成にも大きな影響を与えています。

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© 村橋究理基 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(表示4.0 国際)

一方、伴走支援を行う地域IT企業にとっては、就職活動を控えた高専生との貴重な接点づくりや、企業ブランディングにつながる機会となっています。また、共催する松江市、後援する島根県などの自治体にとっては、地域内就職者の増加や人材循環の促進を目的とした重要な施策でもあります。

学生・企業・自治体が連携することで、三者それぞれに価値をもたらす「Win-Win-Win」の関係を築いている点が、「松江KosenHack!!」の根幹を支えています。

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ハッカソンで用いる技術について

本イベントで採用されている開発環境は、「mruby/c×マイコン」です。「mruby/c」とは、組み込み向け軽量Ruby実装「mruby」を、さらに小規模マイコン上でも動作可能なレベルまで小型化した実行環境であり、しまねソフト研究開発センター(以降「ITOC」)と九州工業大学の共同研究によって開発された技術です。

Rubyの持つ読みやすさや記述性を活かしながら、ハードウェア制御にも対応できる点は、学生にとって学びやすく、かつ実践的な開発環境となっています。

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松江高専は、このmruby/cを早期から教育・研究()に取り入れてきた国内有数の教育機関です。ハンズオンセミナーの開催や教材整備、ライブラリ開発などを通じて、長年にわたり普及と発展に貢献してきました。

また、ITOCも県内企業へのmruby/c普及活動を進めており、人材育成と産業振興を両立させる目的のもと、本イベントに協力しています。こうした背景から、「松江KosenHack!!」の技術選定には、地域発技術を地域人材が使いこなすという明確なビジョンが込められています。


松江高専の研究紹介(研究者:情報工学科 教授・杉山 耕一朗氏)

mruby/cまわりのプログラミング環境の開発・整備を行っています()。本プログラミング環境は小学生以上の幅広い年代をターゲットとしており、Chromebookといった学校現場で使われるPCへの追加インストール無しでプログラム開発体験を提供することができます。

今回のハッカソンでは主として以下のWebページないしVScode(拡張機能追加)を用いてプログラミングしました。学生らがプログラムを楽しく書けて、それを即座にマイコンで実行できることが確認できました。

なお、今回は高専生対象なので使いませんでしたが、小学生向けにブロックプログラミングでもmruby/cのプログラミングができるようにしています。



どのようなハッカソンなのか?を現地レポート

初日は、オリエンテーションに続き、トランプを使ったアイスブレイクワークからスタートします。チームで協力しながら課題に挑戦することで、自然とコミュニケーションが生まれ、チームワークの重要性を体感できる構成となっています。

その後、今回のテーマ「マイコンを使って学生生活をより便利で楽しいものにしよう」が提示され、学生たちは身近な困りごとを起点にアイデア創出に取り組みます。「質より量」を重視する方針のもと、多角的な視点から発想を広げ、最終的にチームごとの方向性を定めていきます。

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1日目午後にはサポート企業が合流し、企業紹介プレゼンの後、ドラフト会議形式によるマッチングが行われます。希望が重なった場合はくじ引きで決定されるなど、緊張感と楽しさが入り混じる場面となりました。

マッチング成立後は、本格的な開発フェーズへ移行します。学生は午前中までの検討内容を企業エンジニアに共有し、専門的な助言を受けながら企画を磨き上げていきます。実装前には、「タスク整理」「工数見積」「役割分担」「スケジュール策定」といった工程管理が行われます。これらは実際のビジネス現場でも不可欠なプロセスであり、学生にとっては貴重な実践体験となっています。

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2日目は終日、企業オフィスでの開発作業が行われます。インターンシップのような雰囲気の中で、エンジニアの働く環境を体感できる点も大きな特徴となっています。全拠点はZoomで常時接続され、他チームの進捗も共有されていました。  

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2日目から1週間後の3日目、この日は成果発表会が行われ、10チームが8分間の持ち時間でデモを交えた発表を実施しました。現場には発表会の審査員としてITOC研究員や学校関係者、行政担当者、地域企業の経営者・エンジニアが集まり、地域ITコミュニティの厚みを感じさせる場となりました。

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発表内容は、「学習意欲を高めるツール」「教員の在室状況可視化システム」など実用的なものから、「モスキート音を活用した検知ツール」などユニークな発想まで多岐に渡りました。BluetoothやWi-Fi、顔認証、各種センサーを活用した高度な実装も多く、高専生の技術力の高さが印象的でした。

優勝チームには、「二度寝による遅刻防止」をテーマに、足つぼマットを活用した覚醒支援ツールを開発したチームが選ばれています。

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「授業出席をカウント&管理するシステム」
~出欠確認用カードリーダー~

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「『TSUBO-UP』足つぼ効果で起床を支援するシステム」
~足踏みすることで停止する目覚まし時計デバイス~

img_output「起床時に友人も巻き込んで二度寝を防止するシステム」
~協調動作する目覚まし時計デバイス (ピザ型・寿司型)~

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~協調動作する目覚まし時計デバイス (寿司型の拡大図)~

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未来へつなぐコミュニティの絆

事後アンケートによると、学生38名中33名が「大変満足」、5名が「どちらかと言えば満足」と回答し、極めて高い満足度を示しました。理由としては、「実際の開発現場を体験できた」「エンジニア職のイメージが明確になった」「チーム開発が楽しかった」といった声が多く寄せられています。また、イベント後には「エンジニアになりたい」という意欲がより前向きになった学生も複数確認されています。

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サポート企業(パソナを除く9社)からも、「大変満足」「どちらかと言えば満足」との回答が100%を占めました。新卒採用につながる接点づくりや、学生の積極性、成果物の質の高さ、企業間交流の促進などが高く評価されています。さらに、「松江市・島根県・企業・高専が一体となった取り組みを継続してほしい」という声も多く、イベントへの期待の高さがうかがえます。

実際に、過去の開催をきっかけに、参加学生がサポート企業へ就職するケースも生まれており、本イベントは地域人材循環の実績を着実に積み重ねています。

 

おわりに

「松江KosenHack!!」は、教育・研究成果、地域技術、産業振興を有機的に結びつけた、全国的にも特色ある取り組みです。学生には実践力と将来への展望を、企業には人材とネットワークを、自治体には持続可能な地域基盤をもたらしています。

本イベントを通じて育まれてきた信頼関係とコミュニティの絆は、今後の地域IT産業を支える大きな力になると見込まれます。「松江KosenHack!!」は、まさに“地域とともに成長する人材育成モデル”として、今後さらなる発展が期待されています。

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松江KosenHack!!の参考情報

開催期間:2026年2月4日(水)~2月5日(木)、2月12日(木)

開催場所:松江工業高等専門学校、技術サポート企業の開発拠点

主催・運営事業者

  • 主催:松江工業高等専門学校|共催:松江市|後援:島根県
  • 運営協力:株式会社パソナ
  • 技術サポート:株式会社アイル、株式会社イーグリッド、株式会社イプシロンソフトウェア、NTTドコモビジネスX株式会社、サイバートラスト株式会社、日本システム開発株式会社、株式会社ネットワーク応用通信研究所、株式会社パソナ、株式会社ヒューマンシステム、株式会社ベクティス(※五十音順)

寄稿者紹介

株式会社パソナ DX HUB島根マネージャー/パブリックDX支援チーム チーム長

田窪 大樹 氏


2010年株式会社パソナに新卒入社。東京本社にてマーケティング業務を経験後、2017年、同グループ内のIT企業パソナテックの島根開発拠点の立ち上げ責任者として松江市に移住。島根エリアにおいては、エンジニア採用業務はじめ拠点の拡大を図る任務を担いながら、産官学連携の座組をベースに、人材育成、就職・採用、地域づくり等に関する事業やイベントの企画・運営に取り組む。「松江KosenHack!!」の企画・運営責任者。

注釈

※1 レポートの内容は寄稿者の知見を基に見解や解釈を加えたものであり、必ずしも内容の正確性を保証するものではありません。

※2 プログラミング環境の構成要素は以下のとおりです。関係者で協力しながらこれらの構成要素を作り上げており、オープンソースとして公開しています。

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