合同会社弐百円_森脇さん

現役猟師で松江市を中心にご活躍されている合同会社弐百円の森脇香奈江さん。
若手猟師として活動される一方、捕獲した鳥獣の加工や販売も行われてます。現場(猟師)から販売までを通して経験されている森脇さんだからこそ、最近話題のIoTなどのICTについてどう考えられているのかお聞きしました。

「"猟師のICT"とICT」/ 合同会社弐百円 代表社員 森脇 香奈江 さん

初めまして。合同会社弐百円 代表社員の森脇香奈江と申します。弊社は 2018 年に「松江に無かった。を、おもしろく!」をテーマに創立した会社です。元々は 2016 年に松江市地域おこし協力隊 1 期生として就任した同期 2 人で、任期中に携わった活動を事業化して継続していくために会社を創り、現在さまざまな事業を行っています。その事業の一つに「鳥獣被害対策」があり、今回はその分野と ICT についてお話ししてみようと思います。

 

結論から言うと、今後鳥獣被害対策を進めていく上で ICT の力は必要だと強く感じます。現に、このような活動を始めてから、「ICT でお手伝いできることはないか?」とエンジニアの方に聞かれることが増えました。最初のうちは自分も現場でどのような課題があるのか把握できておらず、情報交換をしても上手くお答えできませんでした。しかし、丸3 年間、実際に自分も現場に足を突っ込んでみて、初めて見えてくることが多くありました。

イノシシやシカなど野生動物による農作物被害はピーク時から減少したものの、依然として深刻な状況が続き、年間被害額は約 160 億円と言われています(農林水産省令和元年度統計)[写真1]

農水省データ_600
[写真1]農林水産省令和元年度統計データ


その原因として、過疎化や少子化により耕作放棄地が増加し、かつて野生動物と人間の生活圏域の境界にあった「里山」がなくなったことで、野生動物の生活圏域が人間の暮らす場所まで下がってきていることが挙げられます。人間が栽培した農作物はイノシシにとっては麻薬のような美味しさとも言われ、一度口にしてしまうと山に食べ物があっても農作物を求めてわざわざ山から田畑に下りてきます。農地を掘り返されて土がダメになったり、収穫を目前に控えた農作物が全滅するなど、農業従事者にとっては死活問題です。[写真2]

 

荒らされた畑_600
[写真2]荒らされた畑

 

また、イノシシ・シカを捕獲できる人材(猟師)が不足してきているという現象も問題視されています。実際、私もこの 3 年間松江の様々な有害鳥獣捕獲の現場を回らせていただきましたが、70 代、80 代のベテラン猟師さんが第一線で活躍されているおかげで、鳥獣被害から守られている地域が多くありました。

 

有害鳥獣の捕獲には、「箱わな」を使っての捕獲が一般的です。[写真3]
「箱わな」は、被害エリアの近隣のけもの道(野生動物の通り道)から少し外れた箇所に設置します。中に入れたエサでおびき寄せ、奥まで入ってきてトリガーに触れると入り口の扉が落ちてとじこめるという、至ってアナログでシンプルな構造です。

 

箱罠_600
[写真3]箱わな

 

しかし、私が仕掛けてみてもなかなか捕まらない…。こちらの思惑をあざ笑うかのように相手は一枚も二枚も上手なのです。中のエサが良くないのか、私の匂いに気付いたのか、設置場所が悪かったのか…いろいろ試行錯誤しつつ、この世界の難しさと奥深さを日々痛感しています。その一方で、前述のベテラン猟師さんたちは毎日ものすごいペースで捕獲されるのです。これが経験の差というものでしょうか・・・。本来「狩猟」というのは、猟場や狩猟技術を他言することのない世界です。しかし、近年の野生動物とのバランスの変化により、「狩猟」目的でなく「鳥獣被害対策」目的での捕獲が求められているため、慢性的に「捕獲できる人」が足りない状況です。今、ベテラン猟師の技術を継承することの大切さを強く感じます。

 

現在、鳥獣被害は全国的な課題であり、ICT を活用した事例は全国各地で運用され始めています。ICT による通知で見回りの負担を軽減したり、捕獲情報を一元化して管理・共有したりという、便利なサービスも増えています。しかし、この鳥獣被害というのは地域ごとに状況が違い、また鳥獣被害対策の仕組みも自治体によって大きく異なります。ICT を導入すれば全て解決するものではないということは、この 3 年間自分で現場を回ってよく理解できました。これまで山を守ってきた“猟師さんの ICT(I=生き物に対するC=知恵とT=体験)“は、現代のICT で代替できないくらい価値あるものだと分かったからです。

今、“猟師さんの ICT“を尊重し未来へ継承するために、少しずつ一緒に新しい関係をつくり、相互に変換し合える人材が必要だと痛感します。今、目の前で起こっているこの問題に少しでも興味を持ってもらい、解決に向けて一緒に動いていける仲間が増えてくれると嬉しく思います。

プロフィール

森脇 香奈江 さん

プロフィール画像_200

合同会社弐百円 代表社員
管理栄養士・食育インストラクター
狩猟免許(第一種銃猟・わな猟)
松江市鳥獣被害対策実施隊

1981年生まれ。島根県浜田市出身。
広島にて13年間管理栄養士として従事し、2016年4月に松江市の地域おこし協力隊に着任。
協力隊任期終了前の2018年11月に同期2人で「合同会社弐百円」を立ち上げ、任期終了後も
鳥獣被害対策、商品開発、セミナー講師、イベント企画等行っている。
趣味はおいしく食べるための研究、音楽鑑賞。双子の母。

合同会社弐百円HP http://nihyakuyen.com