水産業におけるテクノロジーの活用について考えるオンラインセミナーを開催しました

 

このたび、様々な産業でのIT・デジタル技術の活用について考えるX-Techラボの取組みの一環として「水産」をテーマとした公開セミナーを開催しました。

本セミナーでは、政府が推進する「スマート水産」に関して水産庁の担当者や有識者から最新の動向についてご講演いただきました。また、ITOCが島根県水産技術センターと共同で取り組んだAI活用等の事例紹介や登壇者によるパネルディスカッションを通じて水産業におけるテクノロジーの活用について考えました。

日時

2022年3月3日(木)13時00分~16時40分 

開催方法

Zoomによるオンラインセミナー

主催

しまねソフト研究開発センター(ITOC)/公益財団法人しまね産業振興財団

参加者

島根県内外の民間企業、大学・研究機関、自治体・団体から約100名の参加がありました

セミナーレポート【第1部】基調講演

スマート水産業の展開と漁業の安全対策について(水産庁 増殖推進部研究指導課 岡本 圭祐 氏)

水産庁岡本氏(加工4)200

まず、スマート水産を推進する水産庁 岡本課長補佐よりご講演いただきました。

 

水産庁では、水産資源の持続的管理と水産業の成長産業化を両立した次世代の水産業の実現を目指して、水産政策の改革とスマート水産業の展開を進めておられます。

 

講演では、ICT機器等を活用した「漁業の安全対策」の取組みを取り上げ、音声認識の技術によって船上クレーンを制御する(止める)実証実験の様子やセンサとゲートウェイ機器を併用した落水検知の実証等の様子を動画を交えながらご紹介いただきました。

エシカル消費とスマート水産業(公立はこだて未来大学 和田 雅昭 氏)

和田 雅昭 氏

続いて、政府のスマート水産業研究会のワーキング座長も務め、全国各地のスマート水産の現場でご活躍されている、はこだて末来大学 和田教授にご講演いただきました。

 

講演では、かき養殖業、なまこけた網漁業、たこ樽流し漁業、いか釣漁業、の4タイプの現場におけるITの活用状況をご紹介いただきました。

 

また、日本各地の水産現場では、地場のITベンダーが一緒に取り組む事例が多くなってきており、島根においてもIT企業の参入・ビジネスチャンスがあることを言及していただきました。

セミナーレポート【第2部】事例紹介

島根県によるAIを活用した藻場モニタリング手法の検討(島根県水産技術センター 金元 保之 氏)

金元 保之 氏

島根県水産技術センター 金元(かなもと)氏からは、セミナー主催地である島根県におけるIT活用の事例を紹介していただきました。

 

具体的には、ITOCと島根県水産技術センターが連携して取り組んだプロジェクトで、同センターが行う藻場の潜水調査で撮影した大量の写真データをAIで解析し、藻場の植生を自動で識別する取り組みを紹介しました。

 

ITOCとの実証で識別精度もまずまずであったことから、今後現場への導入を見据えて、地元のIT企業等を交えながら取り組みを発展させていく意向とのことでした。

魚体サイズ推定システムの開発について(株式会社アイエンター システム開発本部 R&D Gr 部長 林 将寛 氏)

林 将寛 氏

次に、株式会社アイエンター 林氏からは、当社が展開するマリンテック事業から「魚体サイズ推定システム」の開発についてご紹介いただきました。

 

開発初期の取組みから始まり、水中カメラの開発やAWSを活用したWebシステムのアーキテクトなど、当システムの開発を技術的な側面から俯瞰的に解説していただきました。

 

当システムを現場へ導入するに当たって明らかになったAIならではの課題や今後の展望についてお話いただき、ITサービス開発者にとって非常に参考となる内容でした。

ディスカッションレポート【第3部】パネルディスカッション

”水産×Tech” 水産業におけるテクノロジーの活用について考える

[ファシリテート] しまねソフト研究開発センター 木村専門研究員

[パネリスト]   水産庁 岡本 氏
          はこだて末来大学 和田 氏
          島根県水産技術センター 金元 氏
          (株)アイエンター 林 氏

 

”水産×Tech” 水産業におけるテクノロジーの活用について考える

ディスカッション概要

アイエンター 林氏

ITベンダーの立場から
アイエンター 林氏

ITの導入・活用を現場の漁業者と一緒に進めていくためには

 

「ITで解決しようという発想ではだめ。簡単なITの活用でも次に進めることができる。それをいかに提案していくかが大事」とはこだて末来大学 和田氏。

 

これを受けて、「まず簡単なところから着手して、徐々にステップアップするように気を付けている」と水産庁 岡本氏。また、アイエンター林氏は「現場では、ITは不要であるという可能性も含めて、業務改善を進めるスタンスで漁業者と話をしている」と現場で理解を得るポイントについて議論していただきました。

 

 

島根県水産技術センター 金元氏

島根県の現状を説明する
島根県水産技術センター 金元氏

漁業関係者間で考え方やルール決めをサポートできるITの可能性

 

「漁業者の中でも短期・中長期のそれぞれの考え方があり、当センターで取り組む資源管理の合意形成は難しい面がある」と島根県水技センター 金元氏。

 

これを受けて、和田氏からは「ITは、部会や組合といった単位でどういう考え方に基づいてルールを決めるか検討するためのツールになる」と、ITの役割・活用の可能性についてお話しいただきました。

 

 

水産庁 岡本課長補佐

政策を推進する立場から
水産庁 岡本課長補佐

漁業現場の課題・生の声をどのように把握し、情報共有していくか

 

「どう現場の声を引き出すか。情報交流の状況は?」と問題提起がありました。

 

これを受けて、岡本氏は「優良事例だけでは知見が足りないことがある。どう問題解決したかを知るという意味で失敗事例を参考にする。オープンに情報交換できると良い」また、和田氏からは「多様な関係者が集うワークショップを定期的に開催しており、その中から新しい取組みを仕掛けていく動きも出ている」と、事例や現場課題を知る取組みについて紹介がありました。

 

 

はこだて末来大学 和田教授

スマート水産の未来を語る
はこだて末来大学 和田教授

市場価格(受給)がリアルタイムに分かることで実現できること

 

和田氏からは、様々な議論があるという前置きをした上で「データが蓄積するといろいろなことが分かる。将来的には需給を踏まえて必要なものだけを獲る受注生産的な漁が実現する可能性がある」

 

金元氏は「予測を活かした弾力的な水産資源保護が可能かもしれない」や岡本氏は「個別魚種の漁獲量が正確に分かれば、現在のトン数規制のあり方も変わるかもしれない」とスマート水産業が進んだ将来の展望が議論されました。

 

 

ITOC 木村研究員

ファシリテータを務めた
ITOC 木村研究員

現場の方々とのつながって島根の水産業を盛り上げていきたい

 

「ITにより”分かること”には価値があると分かった」とファシリテータを務めたITOC 木村氏。

 

議論のとりまとめとして「分かるために必要となる技術を創るに当たって、現場の課題を知ることが必要であり、現場の人達とつながっていくことが大事。IT側の関係者として、現場に出向くこと、また気軽に相談・意見交換してもらえる場を作っていきたい。」と締めくくった。

 


 

【 問合せ先 】しまねソフト研究開発センター(担当:広瀬) TEL:0852-61-2225 Mail:itoc@s-itoc.jp