はじめに

しまねソフト研究開発センター(以降「ITOC」)では、「ITOCminiLab」と称してドローンやXR技術を用いた機器等を整備、島根県内事業者と共同で利活用することで、新たな製品やサービス創出の支援をしています。その一環として、建設コンサルタント会社である日本ミクニヤ株式会社 あさひひまわり工房とVRヘッドマウントディスプレイ(Meta Quest2)の共同利用を行いましたので、取組内容をご紹介いたします。

共同利用の目的

日本ミクニヤ株式会社は、建設コンサルタントとして「環境リスクに対するコンサルティングサービス」および「防災リスクに対するコンサルティングサービス」を中心とした事業を展開しています。また、同社・あさひひまわり工房では、建設コンサルタントとしての技術力を生かし、VR・メタバース等の先端技術を通じて地域が抱える様々な課題解決を図るサービス創出の可能性を探索しています。しかしながら、現状では地方における先端技術自体への認知度が低く、同工房が拠点を構える島根県浜田市をはじめ、地域における活用可能性やニーズがあるのか把握できない状況となっていました。

そこで、同工房で浜田市の伝統芸能や遺構を巡る等の地域資源を活用したVR・メタバース空間を制作するとともに、実際にVR・メタバース空間を体験する「VR体験会」を企画実施することで、地域における先端技術の体験機会とニーズ検証を行うこととしました。さらに、ヘッドマウントディスプレイを用いた没入型体験が、地域の高齢者にとって有用であるかの価値検証体験を通じて不自由や問題が無いか操作性の検証を行うことを目的として、VRヘッドマウントディスプレイ「Meta Quest2」を共同利用することとなりました。

共同利用の成果

今回、日本ミクニヤ株式会社 あさひひまわり工房では、VR体験会と称して幅広い年齢層の方を対象にヘッドマウントディスプレイ(VRゴーグル)を用いた没入型の仮想空間を体験してもらい、どのような反応が得られるかを含めた有用性の検証を行いました。このVR体験会には、同工房が拠点を構える浜田市旭町周辺の地域住民で、特に高齢者の方々に多く参加いただいたものとなります。

この体験会では、日本ミクニヤ株式会社 あさひひまわり工房が制作したVR・メタバース空間で、浜田市にある遺構で公益社団法人土木学会から選奨土木遺産の認定を受けた「広浜鉄道今福線遺構・4連アーチ橋」や、石見神楽の動画と3Dモデルを展示した「石見神楽館」などの地域資源を題材としています。併せて、Meta Quest2に標準搭載しているVRコンテンツ(例:宇宙船内や海外の風景などを探索するゲーム等)を体験いただきました。

このVR・メタバース空間は、メタバースプラットフォームの「Spatial」を通じて、以下のとおり公開しています。

▼VR・メタバース空間
※クリックすると、外部のメタバースプラットフォーム「Spatial」に移動します。

広浜鉄道今福線遺構・4連アーチ橋 https://www.spatial.io/s/Jin-Fu-Xian-4Lian-achiQiao-6358e639f3ac5700012e2586?share=6456775170749554337
石見神楽館 https://www.spatial.io/s/Shi-Jian-Shen-Le-Guan-63afe826758e7f0001e0a7fe?share=4488666127193911255
橋梁の部材、橋梁を学ぼう!
(メタバースで学ぶ橋梁点検)
https://www.spatial.io/s/Qiao-Liang-noBu-Cai-Qiao-Liang-Dian-Jian-woXue-bou-64671611b078e38e665124ad?share=5938679730151370004

03_スクリーンショット※メタバース空間『石見神楽館』のスクリーンショット

実際に体験した方々の感想として「実際にその場で橋を見ているような感覚で迫力があった」や「石見神楽を舞う人の姿をこんなに近くで見る事ができて感動した」など、日常生活では体験しにくいVR・メタバース空間に対して非常に新鮮な感覚を持たれた印象でした。また「今度は山に登ってみたい」などの感想も寄せられたことから、体験を通じて想像やイメージを膨らませて新たな欲求を創出するとともに、脳への刺激効果(ワクワク)を生み出す力がVR・メタバース空間にはあると感じました。さらに、マンネリ化しそうな近隣のウォーキングなどをバーチャル空間で刺激を与えることで継続意欲を上げるといった効果も期待されるのではないかと考えています。

上記の内容から、高齢者にもヘッドマウントディスプレイを用いたVR・メタバース空間の体験は問題なく受け入れられたという検証結果が得られたこと、今後のVR・メタバース空間の活用に向けた様々なヒントを得られたことが今回の成果として挙げられます。

共同利用を通じて得られた課題と気づき

日本ミクニヤ株式会社 あさひひまわり工房より、共同利用を通じて得られた課題と気づきとして、以下が挙げられました。

  • 今回のVR体験会は高齢者の方のみの参加となり、若年層の参加者からVR・メタバース空間を体験する検証結果を得ることができませんでした。
  • 今回の共同利用では、ヘッドマウントディスプレイを用いてVR・メタバース空間を体験した様子と反応を観察するまでに留まり、VR・メタバース空間上における具体的な行動目的(例:ウォーキングや筋トレ等)での効果検証を行う必要があると考えています。
  • 今回の共同利用で使用したヘッドマウントディスプレイ「Meta Quest2」はコントローラーを用いた操作になりますが、ゲームなどを体験したことの無い高齢者にはコントローラでの操作が難しい様子でした。そこで、モーションキャプチャなどを活用した操作方法が実現できると、高齢者であっても直感的に操作できるのでは無いかと感じました。
  • ヘッドマウントディスプレイを利用する際、装着者の頭の大きさなど個人差に対応する必要がありますが、標準パッケージ品の紐タイプのままでは「ぐらつき」が激しく調整が難しいと感じました。ITOCの共同利用機器であるMeta Quest2には、オプションのヘッドストラップ(Eliteストラップ)が装着されていたため個人差に応じて調整できましたが、多様な方にヘッドマウントディスプレイを装着して体験してもらうにはヘッドストラップが不可欠であると感じました。
  • ヘッドマウントディスプレイを用いたVR・メタバース空間の体験者に対して、操作のサポートを目的に体験者が見ている画面をミラーリングしていたものの、ミラーリングの設定などが煩雑なため簡易に画面共有できるような機能があると良いと感じました。また、複数のヘッドマウントディスプレイを一つのタブレットで同時に操作(管理)できれば便利だと感じました。
  • 複数のヘッドマウントディスプレイをスタッフが一人で操作・説明するのは負担が大きいため、今後はスタッフの技術習得にも力を入れたいと考えています。

今後の展開

日本ミクニヤ株式会社 あさひひまわり工房より、共同利用を経て今後の展開として、以下が挙げられました。

  • 今回の共同利用を通して、地域活性化に向けたメタバース空間が地域課題を解決する糸口になる可能性を感じており、今後はニーズを探りながら様々なメタバース空間を作成していきたいと考えています。
  • また、医療福祉やヘルスケアといった分野で、VRを使ったトレーニングメニューの開発やサービス提供などについて可能性を探索していきたいと思います。
  • 特に少子高齢化が進んでいる島根県において、様々な施設などを運営されている方や支援団体などと情報交換を図るとともに、課題やニーズを把握したいと考えています。

まとめ

今回の取組では、日本ミクニヤ株式会社 あさひひまわり工房が建設コンサルタント会社として有する知見やノウハウ・技術力を生かし、新たなサービス創出を目的にVR技術やメタバース空間を通じて超高齢社会の課題解決に向けた適用可能性とニーズの検証を行いました。その結果、むしろ高齢者の方にとってヘッドマウントディスプレイによるVR・メタバース空間の没入型体験に価値創出の可能性を確認するとともに、VR技術やメタバース等のテクノロジーが果たす役割と可能性を発見する機会となりました。このように、建設コンサルタント会社という業種の垣根を越えるとともに、既存の事業に囚われないアプローチで取り組むことにより、新たなビジネスの機会を捉えることができるのではないでしょうか。

この共同利用事例について、より詳しい内容を知りたい方は、以下よりお問合せ下さい。ITOCでは、今後も県内事業者の皆様と新たな商品やサービス創出に向けたチャレンジをサポートしてまいります。また、ITOCが整備するIoT・AI関連機器の共同利用に関心をお持ちの方は、気兼ねなくお問合せ下さい。

99_全体写真

ITOCアドバイザーからのコメント

今回の共同利用に関わりましたITOCminiLabのアドバイザーより、以下のコメントが寄せられましたので、ご紹介します。

  • 今回の共同利用を通じて、高齢者におけるヘッドマウントディスプレイの操作性に関する課題(コントローラ、装着性、運用オペレーション等)を明らかにしたのは、我々にとっても新たな発見があって非常に興味深い内容でした。
  • 実際にヘッドマウントディスプレイを装着してVR・メタバース空間を体験したからこそ、その特性と有用性を明らかにした事例であり、本来のVR技術が有するポテンシャルを問い直す試みは重要と考えます。
  • そして、この共同利用で得られた課題に対して、今後どのようなアプローチで課題解決を行うのか、その試行錯誤に真価があると考えており、今後その真価が発揮されることを期待しています。

山田 宏道(株式会社トルクス 代表取締役)


  • まず、高齢者を主な対象として、VR体験への反応を観察するというのは重要なステップだと思いました。VR体験そのものへは肯定的な反応だったのも興味深く、具体的な行動目的への効果検証のステップに進む上で大事なポイントだと思いました。
  • また、医療福祉やヘルスケアのような分野は可能性が大きいと感じます。少子高齢化の先進県として島根県は良いフィールドであり、予防医療の観点だけでなく、もう少し観点を広げてウェルビーイングの実現といった切り口としても様々な可能性を感じました。
  • そして、どのようなサービス(例:トレーニング等)にするか、実施する場所が「施設」なのか「自宅」なのか、その場合に求められるサポート人材(例:職員や家族など)のリテラシー(例:技術、デバイスへの理解など)の課題をどう解決するかも、社会実装を目指す上で大きな要素だと感じました。

石倉 淳一(ミニマルエンジニアリング 代表)

お問合せ先

公益財団法人しまね産業振興財団
しまねソフト研究開発センター(ITOC)
担当:渡部
Phone:0852-61-2225
Email:itoc@s-itoc.jp


* 本内容に掲載されている情報は2023年7月末時点のものです。