×閉じる
インタビュー Interview

〔ITOC顧問インタビュー企画(Vol.1)〕 須藤修 顧問インタビュー

2019年10月23日

須藤顧問

しまねソフト研究開発センター(以下:ITOC)では、県内においてIT分野での技術発展とオープンイノベーションの加速に資する事業を展開しています。
この先端的な取り組みにおいては、高度かつ専門的知見が必要となることから、ITOCでは現在7名の有識者に顧問を委嘱しております。
顧問の皆様は日本を代表する専門家の方々であり、社会的にも非常に影響力のある方々です。

このたび、〔ITOC顧問インタビュー〕を企画し、ITOC顧問の方々に高度かつ専門的な観点から島根県のポテンシャルやIT分野の技術発展などについてお話しいただきました。

初回は、座長である 須藤修 顧問(東京大学大学院情報学環教授・総合教育研究センター長) にインタビューを行いました。

(インタビュー日:2019年7月26日)


― ITにおける技術開発の潮流は。

学問全体で言うと医学だ。特にゲノム編集。エピゲノムというものがある。遺伝子は静的なものだが、エピゲノムは後天的な環境要因によって変化する。エピゲノムを活性化することで人間をどう進化させるかという研究があり、かなりのデータを解析して人工知能によって予測やシミュレーションが可能だ。

この分野で強いのは、米・ボストンのマサチューセッツ工科大学(MIT)を中心としたエリアと中国だろう。MITは著名な投資家やIT企業から、大きな規模の研究資金を集めている。そういう規模だ。

一方、シリコンバレーでは、自動車の自動走行の研究が進んでいる。国内自動車メーカーも技術者を多く派遣している。研究環境に加えて、道路環境も日本と違って5車線が当たり前で、実験車線として2車線程度占有しても問題が起きないからだ。国内は車線が少ない上、公共事業費の削減や地権者の権限が強いことを考えるととてもできない。

さらに、MITでは地上を走行するだけでなく、市街地では大ドローンを用いた「空飛ぶ自動走行車」を本気で研究し、IT企業がこちらにも大きな規模の投資をしている。もはや「空飛ぶ車」はSFの世界ではなくなるかもしれない。

海外で進む巨額資金を背景にした研究開発や研究内容の先進性、国内から海外への研究者流出がさらに進むと、日本は本当に取り残されかねない。

 

―翻って島根県内のIT産業をどうみる。

 

発想が10年遅れていると言わざるを得ない。野心的なサービスやライフスタイルを一変させるような研究、取り組みがあってもいい。例えば、旧三江線の線路上はドローンの実験地として有望で、過疎地の宅配に革新を起こすことができるかもしれない。

ドローンの欠点は、バッテリーの駆動時間と安全性だ。旧三江線の各駅跡にバッテリーチャージャーを置いて中継すれば、欠点の一つを解消できる。安全性の確保には、風が吹いても墜落しない姿勢制御技術の開発が欠かせず、地元企業で姿勢制御に関するアルゴリズムの開発に取り組めば、技術を蓄積できる上、ドローンの先進地として地域のPRにも役立つだろう。

ドローンを例示したように、島根のIT企業はマシーンラーニング(機械学習)に取り組むべきだ。東京大学の修士課程で学ぶ20代前半の学生は、「マルコフ連鎖」や「隠れマルコフモデル」などを用いて臨床的に病気の状態をトレースできるようなソフトウェアの構築に向け、複合アルゴリズムを使って機械学習、人工知能を動かすプログラムを書いている。いずれ、パッケージソフトとして売り出す予定だ。今までにない製品になるだろう。このような誰でも「おぉ」と驚いてもらえるような、今まで誰もやっていないような取り組みをしなければだめだ。政府が1600億円を用意した「地方創生推進交付金」などのメニューも使いながら、その旗振りをITOCこそ、やるべきだ。

 

須藤顧問02400

 

―島根県はIT産業振興に力を入れた結果、企業立地が進み、業界全体の売上高や雇用者数は伸びてきましたが、下請け業務が中心の構造からの脱却や、社会を驚かせるような製品の開発は道半ばだ。

 

今までの考え方やセンスでは、とても脱皮できず、国内の「下支え」として位置づけられてしまう。安来や出雲には優れた製造業がある。特殊鋼や精密機器でイノベーティブな経済活動が行われている。その波及効果を拡大する戦略を展開すべきだ。業界のフロントに立つような研究や製品開発にチャレンジしなければならない。失敗する可能性は高いが、挑戦し続けることが必要。島根大学医学部付属病院など、各分野の研究・臨床機関との連携も欠かせない。現場で使える製品ができれば、民間企業から商品化の打診も来るだろう。

また、世界的な企業と手を組むのも選択肢の一つ。Googleの日本法人は「Grow with Google」というスローガンのもとに、社会貢献や社会的課題の解決に取り組む人たち1000万人を組織化する目標を掲げている。メンバーには、あらゆるサービスを提供している。機械学習のソフトウェアライブラリ「TensorFlow」を使ってキュウリの形状をコンピュータに学習させ、規格品と規格外品を自動選別して省力化に役立てた例があり、生活に身近な分野から始めればいい。

 

―島根のIT産業がトップランナーに躍り出るために、求められる人材像をどう考える。

 

現在だけでなく、将来的に実現可能な技術に対する知識と社会的課題をマッチングできる人材が欠かせない。そんな人材を育むためには、判断能力と推論能力、コミュニケーション能力を徹底的に鍛えることだ。我々はこれまで、暗記することにエネルギーの大半を使ってきたが、暗記中心の教育は終焉を迎えようとしている。

なぜなら、知識は技術でカバーできるからだ。Googleは、髪の毛ぐらいのチップを頭に刺したり、抜いたりすることで、話す言語や知識の入れ替えができる技術の開発を進めているそうだ。言語のチップを刺せば考えたことをフランス語で喋れたり、法律のチップでは六法全書の内容をそらんじたりできるという具合だ。SFのような話だが、彼らは実現に向けて真剣に研究を進めている。

人材や資金が集積するが故の「飛んだ」事例かもしれないが、一つでも尖った部分があり、誰もが「あっ、なるほどね」と思う発想がなければ、飛躍することは難しい。社会的な課題を多く抱える島根は、発想のヒントが数多く眠っている。

 

このページのトップへ