森 正弥 氏

しまねソフト研究開発センター(以下:ITOC)では、県内においてIT分野での技術発展とオープンイノベーションの加速に資する事業を展開しています。
この先端的な取り組みにおいては、高度かつ専門的知見が必要となることから、ITOCでは現在7名の有識者に顧問を委嘱しております。
顧問の皆様は日本を代表する専門家の方々であり、社会的にも非常に影響力のある方々です。

このたび、〔ITOC顧問インタビュー〕を企画し、ITOC顧問の方々に高度かつ専門的な観点から島根県のポテンシャルやIT分野の技術発展などについてお話しいただきました。

第二弾は、森正弥 顧問(楽天株式会社 執行役員・楽天技術研究所 代表) にインタビューを行いました。

(インタビュー日:2019年7月8日)


―5Gが社会に与える影響は「産業革命」にも例えられ、ビジネスのしくみを一変させると言われる。

AIや5Gによってビジネスがどう変わるかという問題に先行して、消費者の方が既に変わっているという現状があり、こちらの方が大切だ。AIも5Gも「高度な技術の民主化」なので、ビジネスよりも先にお客様が変わる。お客様からすると自らが利用するサービスの提供元が、大企業だろうが、地球の裏側に住む個人だろうが、隣人だろうが関係ない。誰が作ったかを意識せずに利用している。

今は、インターネットの検索機能で世界中どこにでもアクセスでき、表示された情報を機械翻訳によって既に翻訳された状態で得ることもできる。日本企業が得意としていたホスピタリィーに溢れる高品質なサービスを、世界中どこでも受けられるようになった。

逆に言えば、大企業のサービスを受ける必要がなくなったということ。自分がほしい商品を買ったり、サービスを受けたりして、後から気が付くと「大企業のものは一つもなかった」という話になる。約20年前までは、ユーザーを囲い込むための手段として商品やサービスの大量生産、マスマーケティングが有効だったが、今は違う。大企業であることのメリットが薄れ、地球の裏側に住む個人と同じ土俵で戦うことが求められている。

 

―具体的には。

 

私は「個別化」と呼んでいるが、究極的な「パーソナライゼーション」に向かうだろう。100万人には、100万通りの答えがある。楽天の場合、多様なビジネスが取り扱う膨大な商品・サービスと世界ベースで10億人のお客様とのマッチングを進めている。

課題は、お客様一人ひとりのニーズをどう理解し、いつ、どのタイミングで、どのようにサービスを届けるか。解決には、取り扱う一つひとつの商品情報に加えて、お客様のジオロゲーション(地理的情報)やソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)などの情報が欠かせない。

大量の情報を統計的ではなく、個別に扱うことは人間では限界があり、AIにやってもらわなければ不可能だ。トレンドとなりつつある声のインターフェースを使ったサービスを例にしても、現状の商品情報はPCで見るもので、音声読み上げに向いていない。人間が一つずつ書き換えるのは作業量が莫大となるため難しく、音声読み上げに向いた文章を自動生成できる「クリエイティブAI」の技術基盤が必要になる。

 

森 正弥 氏

 

―消費者の変化と技術の進化に対応するために求められる組織形態や人材像は。

 

対応すべき領域が1000個あるとすれば、AIなどを駆使してすべてをやってみて、そのうち可能性のあるものに資金や人材などの経営資源を集中させるやり方が求められる。そのためにも、組織の在り方や情報伝達の流れを変えなければならない。

例えば、エンジニアでもPCとスマホのどちらに対応するかで、求められる技術が違うように、それぞれのことを1人のマネージャーでマネージメントすることは難しい。AIスピーカーなど、対応せざるを得ない領域はさらに広がることから、チームの単位を小さくし、権限を委譲して現場レベルで判断しなければお客様の変化と技術の進化に対応できない。

その上で、現場の判断や考えを組織の上層部が吸収し、今後の展開を考える枠組みを構築しなければならない。楽天も大企業のようにみえるが、実際は70以上の事業を展開しており、小さなビジネスをやっているグループの集合体と言え、常に理想的な形を模索し続けている。

 

―翻って島根県のIT産業振興に求められる視点は。

ブランディングが今まで以上に重要になる。ただ、マスから究極の「パーソナライゼーション」に転換する過渡期において、大企業の持つブランド力が低下したように、これまでに確立されたブランドをこれからの消費者はブランドとは思わない恐れがある。

島根で置き換えると「Ruby」をきっかけにIT産業の振興に10年以上取り組み、ブランド化への入り口はできている。今後は、これまでの取り組みを地場産業や地域課題と結び付けるとともに、IoTやディープラーニングなど、より深い技術領域につなげていくことができるかにかかっており、ITと地場を結ぶ「パイプ役」としての役割をITOCに期待している。
そのためにも、私は教育に力を入れるべきだと思う。例えば、島根の公立学校に通うと、「Ruby」を使ってシステムが構築できるようになるとか、AIを簡単に組めるようになるとか、地場産業と連携したIoTが経験できるとか、島根ならではの教育の仕組みをつくってほしい。他県でもできることだが、「Ruby」を軸に産業振興を進めてきた島根だからこそ、やる意味があり「やっぱり島根だよね」という認識が広がる。

ブランディングによって、企業や人材を呼び込んだら、呼び込んだ人たちを巻き込むことも大切だ。島根に進出した企業に対して、補助金だけでなく、誘致企業のエンジニアが地元の学校で授業ができる特典を付けると面白い。長期的な人材育成やブランド力のさらなる向上につなげることができるだろう。