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インタビュー Interview

〔ITOC顧問インタビュー企画(Vol.3)〕  塚本昌彦 顧問インタビュー

2020年03月13日

塚本 昌彦 氏

しまねソフト研究開発センター(以下:ITOC)では、県内においてIT分野での技術発展とオープンイノベーションの加速に資する事業を展開しています。
この先端的な取り組みにおいては、高度かつ専門的知見が必要となることから、ITOCでは現在7名の有識者に顧問を委嘱しております。
顧問の皆様は日本を代表する専門家の方々であり、社会的にも非常に影響力のある方々です。

このたび、〔ITOC顧問インタビュー〕を企画し、ITOC顧問の方々に高度かつ専門的な観点から島根県のポテンシャルやIT分野の技術発展などについてお話しいただきました。

第三弾は、塚本昌彦 顧問(国立大学法人神戸大学 大学院工学研究科 教授) にインタビューを行いました。

(インタビュー日:2019年9月10日)



―眼鏡型のウェアラブル端末を身に着ける姿が印象的だ。


「ウェアラブル」「ユビキタス」をテーマに20年以上研究してきた。今でいうIoTだ。コンピュータが小さくなったことで、携帯電話のように常に持ち歩いたり、身に着けたりできるようになった。

私はスマートグラスを身に着け、大阪城マラソンや神戸マラソンを走ってみた。スマートグラスを通じて心拍数や走るペース、応援してくれる知人などの情報が得られれば、より楽しく走ることができ、数年後にはポピュラーになるとみている。米軍はマイクロソフト製のスマートグラス「HoloLens」を採用し、現実世界とARを組み合わせた訓練をしており、個人向けだけでなく機械の保守点検など産業用としても普及していくはずだ。

島根県には「Ruby」があり、組み込み向けのプログラム言語「mruby/c」もできた。プログラム言語はソースコードを書くのが楽しいという点が欠かせないが、「Ruby」は楽しい上に、何でもできる良い言語。IoT分野への普及拡大に向け、私も研究に取り入れたいと思っている。


―具体的には。


ウェアラブル端末は、都会だけでなく海で、山で使うという方向性がある。農業では、新規就農者が身に着け、スマートグラスに内蔵したカメラ映像をベテラン農業者にリアルタイムで見てもらうことで、的確なアドバイスを受けることができる。作業効率や収穫量の向上につなげることができるだろう。また、一人での農作業は危険を伴う場合があり、複数の農業者でコミュニケーションツールとしても使えば、安全性も高まる。現在、都会地と農山村を行き来する二拠点生活というライフスタイルがあることからも、ニーズはあるはずだ。

神戸大学で研究室を運営する中で、学生の得意分野や趣味とコンピュータをつなげると研究がうまく行った。例えば、神戸大学でダンスチャンピオンになった学生は、ダンスとコンピュータというテーマで博士課程まで進み、今や起業してLEDを仕込んだダンス用衣装を使った演出で大物アーティストにも頼りにされている。ダンサーの気持ち、ダンスのポイントが分かっていればこそで、ITの技術だけあっても発想すらできなかっただろう。別の学生は「かるた」をテーマに、ウェアラブル端末でどちらが先に札を取ったか判定する仕組みを研究した。このことからも、ITと非ITを組み合わせることで、初めてブレイクスルーが生まれ、ビジネスチャンスも出てくるのではないか。


塚本 昌彦 氏



―島根には少子高齢化や人口減少に起因する地域課題は多く、社会を維持する上でもIT技術への期待値は高い。


島根県は非常に特徴があり、コンテンツの宝庫とみている。先ほど話した農業でのウェアラブル端末は一例だが、美郷町が始めたドローンによる物流ネットワークを構築する取り組みに期待したい。過疎化や高齢化が進む中で、住民の生活維持という観点から、全国に先駆けて町内全域で取り組もうとするのが野心的で、チャレンジング。ドローン配送は、様々な自治体や企業が目をつける分野だが、美郷町は江の川とその支流という格好の実験フィールドがあり、飛行する場所が限られる都会地にはない地域の特徴をうまく生かそうとしている。

今後は物流企業と連携した実証実験や人の移動手段として見据えられる「有人化」を意識した取り組みも必要だ。国の特区制度などを活用して、最新の技術や機材をいち早く認可する。島根県には島前や島後などの離島が複数あるが、本土と離島や離島間でのドローンレースを開催するのもおもしろい。海上の風や不具合があった時の対応など、乗り越えるべき課題は多いが、様々な仕掛けをすると同時に情報発信にも取り組むことで、国内外から注目を集める地域になれるだろう。

また、島根には「神話」や「妖怪」「歴史」といったどの世代にも受け入れられるコンテンツもある。スマホアプリやウェアラブル端末を駆使した観光サービスも有望だろう。


―島根県のIT産業振興に求められる視点は


IoTの進化は今後さらに加速することが予想され、IT産業の振興は島根の産業振興すべてに通ずる。その意味から、あっちこっち走り回って人と人とをつなぐプロモーターの存在は欠かせず、ITOCがその役割を担うべきだ。ITと非ITを組み合わせることが大切と言ったが、その中から目指すべき将来像や狙うべき分野が見えてくるのでは。

私の研究分野で言えば、ウェアラブルの先には、人体のサイボーグ化がある。サイボーグにはパワースーツに代表される義手義足、様々な情報を計測・数値化するセンシング、脳に直接働きかけるという3つの方向性がある。

不老不死を考えると医学的、生物学的なアプローチに比べ、人体の機械化というコンピュータ的なアプローチの方が短時間で達成できると考えており、20~30年後には現実的なターゲットになるだろう。その時は、生身の体をサーバー上の体が動かすという未来像があり、神話の世界と人間の世界をつなぐのが島根であれば、コンピュータの世界と実世界をつなぐのも島根。そんなストーリーが成り立てばいい。

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