鹿島久嗣 顧問01

しまねソフト研究開発センター(以下:ITOC)では、県内においてIT分野での技術発展とオープンイノベーションの加速に資する事業を展開しています。
この先端的な取り組みにおいては、高度かつ専門的知見が必要となることから、ITOCでは現在7名の有識者に顧問を委嘱しております。
顧問の皆様は日本を代表する専門家の方々であり、社会的にも非常に影響力のある方々です。

このたび、〔ITOC顧問インタビュー〕を企画し、ITOC顧問の方々に高度かつ専門的な観点から島根県のポテンシャルやIT分野の技術発展などについてお話しいただきました。

第五弾は、鹿島 久嗣 顧問(国立大学法人京都大学 大学院情報学研究科 知能情報学専攻 教授) にインタビューを行いました。

(インタビュー日:2019年12月5日)



―研究テーマの一つに「人間と機械の融合」を掲げる。

囲碁に代表されるように、機械の知能が人間を超える部分が出てきた。
今後、人工知能のさらなる発達で、機械が人間を支配する世界を想像して恐れる人もいる。ただ、研究者の間では「そんなことになればすごいよね」という印象で、そんな日がすぐに来るとは思えない。もちろんコンピュータは人間よりも計算が速いし、あらゆる可能性を試すことができる訳で、解決すべき課題が決まれば、人間よりもコンピュータが優れている場合はある。その段階まで、どうやってもっていくかは、まだまだ人間の領域。課題を見つけ、解決に導くやり方を教えるのは人間だし、課題解決に必要なもともとのデータを生み出すのも人間だ。

すべてのことがコンピュータで解決する完全自動化の道筋はまだ見えない。現実的な解としては、人間と機械が一緒になって、これまでに解けなかった問題を解くというのがあると思い、研究している。人工知能がさらに発展していくために何が必要かという点で、一つの方向性として「人間と機械の融合」があるのではないか。


―人工知能や機械学習の研究分野としての可能性は。

人工知能や機械学習を用いたデータ解析による将来予測は、実世界とダイレクトに結びつく場合が少なくない。例えば、マーケティングの予測精度が1%向上すると、売上も1%上がるというようなことになれば、IT以外の人たちにも影響があり、やりがいもある。

今でもIoTと言われるように、様々なものにセンサーが使われ、インターネットにも接続され、これまでに出てこなかったデータが取れるようになるという部分と、これまで取れなかったデータが取れるようになる部分がある。例えば、自動車は昔、いわば鉄の塊だったが、今ではコンピュータユニットが内蔵され、ある種車の中にコンピュータネットワークがある状況になった。これまで取れなかった車の一つひとつの挙動がデータとして取り出せるようになり、運転者の支援など新しいことができるようになる。

一方で、コンピュータネットワークの一つと捉えると、パソコンに対するウィルス攻撃と同じで、車を外からインターネットを経由することで攻撃できたという実験例も既に出てきた。コンピュータウィルスは大きな問題だが、実世界のものがIT化され、実世界とコンピュータの世界より強くつながるようになれば、良くも悪くも影響の範囲が大きく広がる。できることが増えるが、リスクも増えるということで、研究分野としても広がりがある。

 

鹿島久嗣 顧問02



―IT産業の振興に取り組む島根県にとって求められる視点は。

ITの長所は、重工業などと違い、大がかりな仕掛けは必要ない。小さく始めることができる。一方で、世界のどこでもできるから、差別化が難しい。技術やデータがものをいう領域であれば、データの量と処理能力が大きな問題となり、その戦いをできる人とできない人がいる。

島根県の場合は、課題で差別化すべきではないか。少子高齢化や過疎化など、ある意味で最先端を行く課題先進県だからだ。課題を克服するために必要となるデータも島根にはあるはずだ。幸い、島根県には規模は大きくないものの、地域課題の解決に向けた数々の取り組みがあり、外から見ても元気というかアクティブな印象を受ける。

技術者や資金といったリソースが限られる中では、最先端の技術を追い求めてホームランを狙うよりも今ある技術を使える人を育てることが大切。人工知能も徐々にパッケージ化され、使いやすくなりつつある。私としては、技術がおもしろいから研究しているのであって、技術が一般化して差別化要素でなくなるという現在の流れにさみしさを覚えるが、これまでのプログラミングができるというレベルから、これからは課題を人工知能や機械学習を使って解決するために、正しく課題を落とし込める人が求められるのではないか。

 

―人材を育成して地域にとどめるためには、息の長い取り組みが欠かせない。

当事者意識を持ち、熱意のある人をどこまで増やせるかだと思う。課題を持っている人が技術も持っていれば、一人ででもできる。私は十数年前、生物学の分野の人たちと共同研究に取り組んだが、課題を持つ生物学の人たちがITを学び、使いこなして解いていくということが正しいという印象を受けた。一技術者の立場では、当事者意識を持つことには限界がある。

ITOCがITの人たちとそれ以外の人たちをつなげ、同じ場所に座らせてあげるのが大切な最初のステップになるだろう。分野の違う人たちを同じ場所に居続けさせることは、最初は高いモチベーションであっても、マンネリ化する可能性があり、難しいかもしれないが、継続的な取り組みによって課題のある分野とIT分野の知識や技術を併せ持つハイブリッド世代が必ず生まれる。場合によっては10年程度かかるかもしれないが、島根のIT産業のヒット率を上げるという意味では、一番有望ではないか。