まつもと ゆきひろ 顧問

しまねソフト研究開発センター(以下:ITOC)では、県内においてIT分野での技術発展とオープンイノベーションの加速に資する事業を展開しています。
この先端的な取り組みにおいては、高度かつ専門的知見が必要となることから、ITOCでは現在7名の有識者に顧問を委嘱しております。
顧問の皆様は日本を代表する専門家の方々であり、社会的にも非常に影響力のある方々です。

このたび、〔ITOC顧問インタビュー〕を企画し、ITOC顧問の方々に高度かつ専門的な観点から島根県のポテンシャルやIT分野の技術発展などについてお話しいただきました。

第六弾は、まつもと ゆきひろ 顧問(一般財団法人Rubyアソシエーション代表理事理事長) にインタビューを行いました。

(インタビュー日:2020年1月14日)



―Ruby開発の現状は

2019年12月にRubyのVer2.7をリリースし、新しい機能を加えた。さらに、20年12月にVer3をリリースすべく、取り組んでいる。我々のゴールは生産性の向上で、プログラミングが楽になるように、同じ作業でも早くなるようにすることを考えた。Rubyは、多くの技術者が使う大規模で複雑なソフトウェアでもあるだけに、使い勝手の良さを維持しつつ、メンテナンスや改善に取り組むのは大きなチャレンジだ。たくさんの人たちが使う言語だからこそ、その人たちに迷惑をかけない、迷惑をかけたとしても最小限にとどめるということも考えなければならない。Rubyを使う技術者からインターネット上でバグの報告や改善に向けた意見を募り、一つひとつ検討して「これは入れる」「これは入れられない」と判断している。

 私は最近、職業を「言語デザイナー」と名乗っている。プログラミング言語をデザインする仕事は、幅広い領域に関わることができる稀有な仕事だと思う。プログラミングで生産性を左右する「どの言語を使うか」「どんなデザインをするか」という点は人間の心理に関係する。一方、コンピューターの機能を100%発揮させるという観点では、コンピューターサイエンスの分野があり、研究という意味では社会的、文化的な側面もある。これは、お客様のためのアプリケーションを作るとか、機械のための組み込みシステムを作るとか、同じプログラミングであっても、若干違った仕事だと認識している。


―IT技術者に求められることは

ソフトウェアの世界は個人の力が大きい。例えばRubyは元々、私一人でつくっていた。大企業がバックアップしていた訳ではない。技術者に必要なことは「手を動かす」「ものをつくり続ける」「アウトプットをする」ということではないか。具体的には、ソフトウェアをつくったり、調べたことを文書にまとめたりした結果を人に見てもらうということ。そうすると、技術者として伸びていくのだと思う。

その意味では、企業に属する技術者が、会社の仕事だけやっていては不十分ではないだろうか。業務で大企業のシステム構築に参加したとしても、自分がつくりましたとは言えない。確かに、日々の仕事は忙しく、公にすべきでない内容もあり、アウトプットしにくいのかもしれないが、評価される人は「私は○○をつくりました」と言える人。私は○○社に所属して○○社のシステムを作りましたというのが年々、通用しなくなっている。個人の強みや売りがあれば、待遇や立場など自分のまわりの環境を変えることもできると思う。

 

まつもと ゆきひろ 顧問02

 

―島根県や松江市がRubyを核にしたIT産業の振興に取り組んで10年以上が過ぎた。企業進出が進み、技術者のコミュニティーもできたが、さらなる振興に向けて求められる視点は。

何をすれば効果的かという答えは何を求めるかによって変わるため、わからない。私が松江市に住む理由は、教育や医療など暮らしの面からみて、ちょうど良い規模の町だったからで、何を魅力に思うかは人によって異なる。

ただ、松江市が10年以上継続的に取り組む「中学生Ruby教室」の卒業生の中には、高専や大学へ進学した後に、地元IT企業に就職するケースが出てきた。12回続く「フクオカRubyアワード」では、過去に複数回、島根のコミュニティーから生まれたものが大賞を受賞して全国的な評価を受けた。

今後も技術者が集う場を作ってあげて、みんなで応援していく中で突出した技術者が育ってくれたらと思う。子どもたちにとっては「中学生Ruby教室(現小中高生Ruby教室)」「Rubyプログラミング少年団」が、企業にとってはITOCがそういう場になるのではないか。子どもたちへの教育をしても高校卒業後に県外に出ていくとか、最新技術の研究に取り組んでも大企業の資本力には敵わないという見方はあるが、だから諦めてしまうのだけはよくないと思う。


―2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化される。

幼いころからプログラミングに親しむことが、必ずしも優秀な技術者を育てることにはつながらない。コンテストの受賞経験がある子どもが、未来を創る新しいプログラミングをどんどん作るかと言えばそうではない場合はあるし、若い時にプログラミングに接する機会がなく、スタートは人より遅かったけれど、それでダメという訳でもない。

プログラミングの適性をテーマにした研究によると、高等教育を受けた大学生でも6割に適性はなく、得意科目との相関関係もなかったそうだ。私たちが予断を持って「この子はできそうだ」というのはまったく当てはまらないということ。これを踏まえて考えると、プログラミングに興味はないが、適性がある子どもはかなりいそうだ。小学生のプログラミング体験が才能を発見する場となりえるだけに、期待している。

プログラミングを楽しんでくれ、学びたいと思ってくれる子どもたちには「もっと先に進んでいいよ」という雰囲気と受け皿が必要ではないか。各学校にパソコン部ができたり、パソコン少年団みたいな組織ができたりすれば素晴らしいと思う。松江市の場合は「Rubyプログラミング少年団」があるだけに、他地区などへの横展開ができればと思う。